ばのブログ

フルゆとり世代の俺

機械との生活

機械のいってらっしゃいは無機質だ
返事をしようとは思わない
おかえりなさいだってそうだ
今日も返事はしなかった

365日が経つのは年々早くなっていって
また一年が終わる
そういえば機械がここに来たのもちょうど1年前
なにかしてやろうにもなにをしてほしいのかわからない

一年と少しが経って変わったことがある
いってらっしゃいにお気をつけてが加えられた
機械に身を案じられるとは
そう気分の悪いものではない

どれくらい家を空けますかと尋ねられた
近頃家を空けることが多いからだろうか
日数を伝え家を出た
相変わらずの表情だが最初の頃とは変わってきている
機械も日々学んでいるようだ

長い間家を空けたように思う
表情の変わらないおかえりなさいに返事をした
期間を気にする割には素っ気ないものだ
機械なのだから無理もない

本格的に家に帰らなくなってきた
仕事場との往復に今の家では限界だろうか
テーブルに散乱している物件の資料にざっと目を通す
頭は回らないが早めに見繕わなくては

家に帰るとテーブルの資料は整理されていた
機械のやつが整理したのだろう
いくつかの候補を決めていると質問をされた
次は帰ってきますか?
よくわからない質問をしてくる

いくつかの内見を終え家へ戻る
私を迎える機械に引っ越し先が決まったことを伝える
機械の持ち物はそこまで多くはないが
そろそろ荷造りを始めてもいいのではないか
機械にも考えがあるのだろうか
引っ越し日も伝えておこう
今日は質問されないようだ

引っ越し日がきた
機械の部屋に向かって呼び掛けると
了解しましたと扉が開いた
手荷物一つ持たない機械は玄関へ向かう
いくらなんでも手ぶらということはないだろう
荷物はどうしたのかと問う
機械は起伏のない表情を精一杯に歪ませこちらを窺う
言っている意味がわからないようだ
特に荷物がないのなら構わないと機械へ続く
靴を履き玄関の扉に手をかけた

「いってらっしゃいませ」
振り返ると機械は今日も頭を下げていた。