この涙の言い訳は
泣きたくなるときがある。
それも嗚咽するほどに。
季節、気温、感情、状況、何かがきっかけで泣きたくなる。
夏が嫌いだ。ジメジメした空気に服を脱いでも汗が滴る。
夏が好きだ。気分が開放的になって大抵のことはどうでもよくなる。
冬が好きだ。カラッとした空気に着込めば温かい。
冬が嫌いだ。夜が長くて一人が少し寂しい。
今が冬だから夜が長いから、きっかけなんて言い訳でいくらでも取り繕えて、都度作り出されるきっかけに今日もまた涙する。
短い間に悲しみが重なった。
短いと思ってた時間が積み重なった。
令和は五年になって、早生まれの俺は遅めの誕生日がまた近づいてきた。
一つ年齢が上がるごとに何者かになれてるんだろうか。何者かになりたいと思って過ごした日々に俺は何かを手に入れたのだろうか。
がむしゃらに生きる今頭をよぎるのは失くしたあの時の光景だ。
あの時泣けなかった俺が今泣くのは、きっと気づいたからなんだろう。
温もりも優しさも怒りも憎悪も全てが愛おしいなんてことは嘘になる。
それでも心のどこかに愛しい気持ちはあったんだ。
冬が嫌いだ。亡くなったあの人を思い出す。
怒りと憎悪なんて微塵もなかったかのようにただ温かい手を伸ばしてくる。
冬が好きだ。長い夜に嗚咽を漏らしても夜闇はそっとしてくれる。
この涙の言い訳は冬だから。