ばのブログ

フルゆとり世代の俺

大切なものは欲しいものより先に来るらしいよ

マスクの中で私じゃない誰かが鼻をすすった。電車に乗って揺れる車内のがたついた音を縫って聞こえたその音はマスクの中を探しても空っぽで、少し前のように視覚から得られる情報も少なかった。隠されたものを見つけるのが好きで隠したものは見られたくなかった。自分勝手でもそれが正しくて今は嘘ばかりだ。
自分を型どっているものはなんだろう。鏡に私を映してみればそこには誰かを象った私がいる。いつだって足りなくて憧れて近づいたあの人もまた迷子なのかなって。みんな違ってみんないいのにみんながみんな褒められるわけじゃない。嘘ばっかりのその言葉を鵜呑みにすれば非難の目を避けることはできなくて、私は何回目かの変身をした。見慣れた私じゃない姿。いつの間にか私が何かはわからなくなって、どこにいるかもわからない。そんな私が嫌になる。だから私はかつての私を探す旅に出る。それは過去を振り返りながら未来に進む道になる。もう嘘をつかなくていいことに安心した。
今までよりも困難な道が続くだろう。でも私は道ではなくその地平線を眺めた。他人からの評価に沿って歩く方が簡単なのかもしれない。それでも自分を好きになれなかった私が決めた初めての道は歪な形でも光を放っていた。目もくれずに終わらない道を進む。もう見つけられなくてもいいと思った。そこに至るまでの道がかけがえのない物になるんだとそう思った。