ばのブログ

フルゆとり世代の俺

「ジョーカー」最悪で最高なショーの始まり

非情で残酷で猟奇的で純粋な悪。私が興奮しているのは、人間の倫理的な善悪を完全に悪に振り切った人間、悪魔に成った悪の誕生を見ることができたからだろう。

ジョーカーの誕生が描かれた今作でジョーカーはまぎれもなく人間だった。劣悪な環境に笑うことでしか感情を表せない男は、多少の気味悪さを持った路傍の石に過ぎなかった。無情に重なる出来事にどんな感情で彼を見ればいいのかわからなくなる。唯一彼を支えるコメディの世界は、笑わせるはずの彼を笑ってしまった。悲劇であったはずの彼の人生は初めて人を笑わせることになる。笑われるという形で。

自分の位置を定めることは難しい。幸か不幸かを決めるのは誰でもない自分であり、同じ環境にいるものが同じ人間に成るとも限らない。それでも、黒い感情が黒すぎる感情に感化され位置を定めることがある。
それは偶発的な悪の象徴の誕生。迷う者をそれでいいと暗示するその背中は奇妙で珍妙でどこか愉快なものだった。

今作は飄々とした掴み所のないジョーカーよりも感情的になる部分が多く見受けられる。それはまだ人間の部分を多く持っているからだろうか。終盤からの悪に舵を切り始めた彼は圧巻だった。元からの悪ではなく、悪への道程をなぞったことで彼の行動一つ一つが目を見張るものになっている。色気と狂気の調和、小気味良い音楽とダンスに思わず微笑し、一流のコメディアンを見るかのように目を輝かせてしまった。

数多くの人々を笑わせた、稀代のコメディアンが名付けた名前「ジョーカー」。そして人々を初めて笑わせたジョーカー自身がコメディアンに成り代わり、これから演じる「喜劇」。見終わった瞬間からジョーカーの「喜劇」を更に見たくなるそんな映画だった。


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P.S.
見終わってすごくタバコ吸いたくなりました。