ばのブログ

フルゆとり世代の俺

偽善

相棒の原付を走らせる。目的地は不明。
五万円で買ったジャンク品のこの安心感はなんだろうか。
何気なく通りかかる車道で青の点滅が急かす。
どうやら今回は間に合わないようだ。
色が変われば待ち人が進む、ちょっとフライング気味なのはこのジャンク品と変わらない。

青の点滅が歩行者を急かしはじめるのをよそに右手を徐々に捻り始めた。スタートダッシュを決め込んだところで先頭でいられる時間は長くない。
スタート一秒前、急かされても動じないものが一人。
気にせずスピードを上げる。

頭にちらつく光景が右手を緩める。戻ってみるか。
ほんの些細な取っ掛かり、自己を満たすだけの行為。
やはりまだそこにいた。

少し離れた場所に原付を預けて向かう。
特に声を上げるでもなく少しずつ進む彼は鉄の塊からの圧力と周囲の生暖かい目に晒されている。

わかっていた。
ヒーローにはなれない。ただの気まぐれだった。

声をかけると大丈夫だと返ってくる。
大丈夫だと言っている。引き下がればいい。
額から滲み出る汗とくっついたシャツに見とれた。
なんで声をあげないんだ。
プライドはきっとある。それでも悔しかった。
困ったときに声を上げられない、周囲は厄介な面倒事を嫌う。誰だってそうだ。引き下がれなかった。

無理矢理に肩を貸して帰路につく。本当に大丈夫なんですと彼は言う。
大丈夫な人の汗のかきかたじゃない。
気のきいた言葉が出てこなかった。
家はどこですか、指を差された場所は目と鼻の先。
これぐらいの距離頼ってくれていいじゃないか。

そこまで送って行きますよ、
突然足腰が痺れてきちゃってと笑う。今日は調子がいいと思ったのですがすいません。
やめてくれ、謝らないでくれ。頭を下げられるほどの人間じゃない。たまたま目についただけだ。
毎日ボランティアに勤しみ見返りを求めず奉仕できるような人間じゃないんだ。

家についた彼は笑っている。何て強い人なんだろう。
本当にありがとうございました
どんな返答をしたかは覚えていない。
ありがとうと言われてあんなに苦しかったことはなかった。

手を差し伸べる側がフィーチャーされることはある、まるでヒーローのように。
手を差し伸べられる側の気持ちは描写されない。
助ける側のエゴに付き合わされたのに。
礼を言われたかったわけじゃない。
それでもどこかで期待してたんだろう。
無責任な正義で救った気になって最後に思いしる。
人は時に救っていい人間ですらない。